1. 三つのルール 2. 野外彫刻、三つの活用法 3. 三つの「ウェア」 4. 文化を育む三つの「C」 5. 三つの期待 6. 三つの懸念 7. 三人の地域リーダー 8. 優れた企業、三つの条件 10. 三種の神器と三上の訓 11. 三人のトラバーユ 12. 深夜の国際電話 13. 選択的市民のすすめ 14. 明快少年出現! 15. ふるさと人材育成事業報告 16. 魅力あるまちづくりとは? 17. アメリカの常識、日本の非常識 18. 女性のバス運転手 19. たかがチップ されどチップ 20. ボーダレス時代の新市長に望むこと |
「学園都市」その1眠い目を擦りながら彼は布団から抜け出た。見ると時計の針は既に正午を回っている。顔を洗いながらボンヤリと考えた。「昨晩は本を読んでいて結局4時頃まで起きていたっけ。卒論の準備に色々と文献調べをしているとツイツイ夜遅くなってしまう。そうだ、今日は気分転換に久しぶりに新宿のあの店でレコードでも買おう。あの店なら、今月発売予定のあの新曲も入っているだろう。軽く飯でも食って帰ろうかな。」いつも必要な買い物は三鷹ですますが今日は特別。独り暮らしの彼には誰に遠慮気兼ねもいらない。思い立ったが行動の時である。 三鷹駅までは自転車で10分。時刻表を見る必要はない。3分から5分間隔で電車が来る。 「だから、東京は便利だ。」彼はそう思う。仮に定期券を持っていなくても新宿までの電車賃など全く気にならない。時間を消費させ自分の好みにピッタリ合う商品、サービスを提供してくれる東京を彼は気に入っている。 新宿駅の東口を出ていつも通い慣れたビルの傍をウィンドウの中を覗きながら、お目当ての紀伊国屋ビルに向かって歩いて行き、ビル正面のエスカレーターで二階に昇っていく。昇り切ったところがレコード売り場。いつもこの店で買っているだけあって、店の中に何千枚のレコードがあろうとも、好きな歌手やグループのレコードがどこに陳列してあるかはすべてわかっている。新曲が探したくても店員には決してきかない。自分で時間をかけて一枚一枚レコードを探す、その時間がまたいい。単純な動作、それが楽しい。学生の彼にとって時間はたっぷりとあるのだから。 お目当てのレコードを選び終わった後でレジでお金を払うと会員カードにスタンプを押してくれる。値引きの無いレコード販売ではスタンプが10個貯まるとレコード一枚に交換してくれる。「だからこの店が好きなんだ。東京に来て買ったレコードは既に50枚を超えただろうな。」と呟きながらレコード売り場から奥の書籍部に入っていく。 スーパーマーケットほどの売り場面積のあるこの書店には、2階から5階までの各フロアーに人文科学、社会科学、自然科学、フィクション、ノンフィクション、雑誌から単行本そして洋書まであらゆる書籍が並んでいる。「ここで探して無い時には他所の店でもないだろう。」と諦めもつく。いつ来ても不思議なほどに混雑している。「ナーニ、デイトの時間調整や通勤の途中や他の買い物のついでに来てる奴が多いんだ。」と彼は勝手にそう思っている。 また一箇月位は来れないだろうから、とまとめて買い込んだので、随分と時間を食ったようだ。いつも寄る喫茶店でフッと腕時計を見ると4時を過ぎていた。 「久しぶりに中村屋のインド・カレーを食べて帰ろう。アパートに着くのは6時を過ぎるかな。今日は銭湯を出たら天狗屋の焼き鳥でビールをチョット飲む。そして早目に寝よう。いつも朝方の4時まで起きていたんじゃ、体に悪いしな。」いつもレジに立っているバイトらしい女の子の可愛い笑顔に送られて彼はその店を出た。 1994/03/08 |
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